【職人の手仕事】手縫いのボタンホールでスーツは変わるのか?
一部のフルオーダーを除いたオーダースーツの工程のほとんどはミシンによって縫われています。
ミシンを使用する理由は、手縫いよりも短時間で仕上げられる事、職人の育成面においても手縫いより技術を習得する時間が圧倒的に短いからです。
ジャケットの背中心やパンツの股下等、ミシンの方が強度が上がり優位に働く事もありますが、ミシンを使う主な目的は“コスト面”によるところで、フルハンドのスーツより早く安く仕上げる事ができます。
逆にフルハンドのメリットは柔らかく縫い上げるができる事、カーブが縫いやすい事。また“イセ込み”分量をミシンより多く取りやくなることで、マシンよりも立体的なフォルムに仕上げやすい事にあります。
※ちなみに、なんちゃってフルオーダーに騙されない為にこちらのブログも是非ご覧ください。
【業界の嘘】仮縫いを付けたらフルオーダー?いえいえ違いますよ、という話。
マシンメイドのパターンオーダー
当店ではフルハンドでのパターンオーダーもお受けしておりますが、基本は手縫いの工程を随所に入れたマシンメイドのパターンオーダーです (レーベルによって手縫いの工程が増えていきます) 。
マシンメイドのパターンオーダー=ダメ、というのは誤りで、フルオーダーかパターンオーダーかは手法についての問題です。フルオーダーの方がコストも上がる分、良いスーツに仕上がりやすいのは間違いありませんが、マシンメイドのパターンオーダーであっても『格好良くて、着心地が良くて、価格も満足できれば』それで良いと思います。
“オーダースーツ”と一言でいっても、フルオーダーであたり、パターンオーダーであったり、それらの中でもやっている事は全然違ったりするのがオーダースーツ業界です。
手縫いを感じれるオプションメニュー
“手縫い”は基本的に着心地上昇を目的に使われますが、機能面ではなくデザイン的な意図を持って着心地に関係ないのが今回のブログテーマ、“手縫いのボタンホール”。
基本はマシンでボタンホールを作りますが、手縫いで仕上げるとこのような表情に!
どうでしょうか?
この二つのボタンホール、どちらが手縫いかお分かりになりますでしょうか?
それぞれを拡大するとこのようになります。
グレーの生地が手縫いで、ネイビーの方がマシンでのボタンホールです。
手縫いの方は縫い目が不揃いで膨らみがありますが、マシンだと均一な縫い目になっています。この立体感の違いが手縫いの良さであり、洋服好きにご好評いただいていてるディティールになります。
マシンの方が時間もかからないので、悪い言い方をすると手縫いボタンホールは時間と手間をかけて不揃いにしています (笑) 。
不揃いになるのですが、手縫いのボタンホールはそれが格好良い、という価値観です。
裏側もマシンのボタンホールの方が綺麗に揃っています。
手縫いかマシン、どちらが良いかはお客様の好みの問題で、立体的なふくらみがお好きな方は必ずボタンホールは手縫いにされますし、均一な見た目が好きな方はマシンでのボタンホールにされます。
興味が無い方からすると、揃っている方が綺麗と言われる事も多いです。
手縫いのボタンホールだけでスーツ自体の高級さ云々は変わりませんが、自己満足に近いマニアックさを持ち雰囲気の柔らかさにも繋がるディティールだと考えています。手縫いの温かみを感じていただける意匠となりますので、気になられた方は是非一度チェックしていただけますと幸いです。
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