【永久クリース仕様?】スラックスにクリースステッチを入れるデメリットを2つ。
スーツのスラックスに必要不可欠なクリースライン。パンツの真ん中に入っている線のことで、これにより縦長に足を綺麗に見せられ、またフォーマルな印象を持たせることができます。スラックスだけでなく、ジャケットとコーディネートさせることを目的に、デニム素材でもクリースラインを入れるイタリア既製品メーカーがありますね。
このクリースラインはアイロンでプレスしているだけですので、湿度が高い時期や雨に濡れた際など消えてしまう場合があります。クリースラインの入っていないスーツスタイルは間が抜けていて格好良くありませんので、洋服好きの皆様には必ず入った状態で履いていただきたいところです。
取れにくくする対策
線が取れにくくする対策として、シロセット加工というエクシリン等の液体を使い、しっかりとした折り目を付けるという方法があります。クリーニング店で簡単に依頼できますが、高級素材の場合シミになる事もあるので注意が必要です。
別の方法としては、クリースラインにステッチを入れるというものがあります。液体で効果が薄まっていくなら物理的に取れなくしてしまおうという考えです。これは巷で永久クリースと呼ばれ、表からステッチを入れるパターンと、裏から特殊ミシンでつまむパターンがあります。
当店では前者のパターンでクリースステッチをおこなえますが、そもそもクリースステッチには大きく2つのデメリットがあります。このデメリットがありながらもいくつかの自分の洋服に取り入れている仕様ですので、是非最後までお読みいただいて、仕様を取り入れるかどうかご判断をしていただければと思います。
クリースステッチのデメリット1つ目
クリースステッチのデメリット1つ目は、ステッチが取れた際に線が薄くなり、入っている箇所とコントラストが効いてしまうところです。
当店でクリースステッチを永久クリースと呼ばないのはこのためで、ステッチが取れると当然クリースラインも消えていきます。
ステッチが取れるのには理由があります。
通常ステッチには補強を兼ねている場合が多いです。このスーツでは背中心を地縫いしたあとに縫い代を倒してステッチを打っています。つまり2度縫うことで強くなるという理屈です。
例外として、ジーンズの股側は巻き縫いといい、専用のミシンで2本のステッチだけで抑えていますが、これは太番手糸を使っているため強度を維持させることができています。因みにジーンズは巻き縫いだから丈夫というのは私は懐疑的です。地縫いした後に巻いてステッチをいれたほうが2回縫っていることになり、強さという意味ではこちらに分があるのではないでしょうか。すみません、話がそれました。
補強の意味合いには地縫いが必要で、クリースステッチのようにつまむだけの縫製は他部分よりも比較的取れやすくなります。加えてテンションのかかりやすいパンツであればなおのこと。この傾向は生地が分厚くなればなるほど、生地の動きに糸が耐えられず切れてしまうことがあります。
当店の表からステッチで叩いているものでも履いていると取れる場合があるので、裏からつまむものは強度を考えるとさらに解けやくなる仕様です。
ただし、ステッチで叩いているだけの簡単構造ですので直すのも簡単。糸の色さえあえば10分くらいで直せますのでご安心ください。
クリースステッチのデメリット2つ目
デメリット2つ目は、クリースラインの不自然さです。立っているときは気になりにくいですが、座った際などクリースラインがしっかりと出過ぎてしまい、若干不自然です。なので個人的にはクラシカルなスーツにはお勧めしません。調和を目指すスーツにおいて、不自然さは避けた方がよろしいかと思います。
まとめますと、クリースステッチは他の縫製箇所よりも解けやすい、見た目に若干の不自然さがある、というデメリットがあります。それを踏まえて、コットンやフランネルといったスポーティなスーツや、ジャケパン用のオッドトラウザーズなどには上手くハマる仕様ではないでしょうか。ご参考にしていただけますと幸いです。
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