【洋服づくりの基本】ダーツって何?クセ処理というチートの話。
本日は服飾用語解説、ダーツの話。
ダーツは洋裁を習うと一番初めに教えてもらう内容です。合わせてバーにあるダーツとは違いますよ~ははは~なんて冗談が言われるか言われないとか。
脱線しました。ダーツは洋服を立体にするために施され、ジャケットのフロント部分にもあるこの縫い線の事です。洋服の考え方として、平面の布をいかに身体に沿った立体にするかを大切にしており、とても重要なディティールです。
A4用紙の紙の端をテープで留めると上から下まで均等な円柱です。
真ん中にダーツを作成。本来もっと曲線にしますが、紙なので折りやすい真っすぐなダーツにしています。
内側でダーツを留めると平面が立体に。
最初と同じように紙の端を留めるとこのようになります。ダーツのある向かって右側の箇所がくびれているのが分かります。
各パーツの端がこの紙に書いた斜線部分を除いたようなカーブになっていれば、それは端でダーツを取っているのと同じことになります。
メンズジャケットの身頃の型紙がこちら。①の本当のダーツに加えて、②の前身頃、脇見頃、後身頃を繋ぐ線がダーツのようにカーブしていまして、この箇所を縫い合わせる事でダーツと同じ働きをします (反対に凸状になっているのはお尻の丸みを作るため) 。“縫い線はダーツ”といわれるのはこれが理由です。
基本的にはダーツを取った位置が立体になりますので、それぞれの分量 (カーブ) を調整していき、身体を包み込む形に作成していくのが型紙設計です。人によって身体の曲線は異なり、同じバスト、ウエスト寸法のジャケットであっても、このバランスが変われば全く着心地の違う洋服となります。
レディースのジャケットでたまに見る、プリンセスラインというバスト横に伸びる縫い線は、女性のバストが男性のものよりもより立体を必要とする為生まれました。
ちなみに、縫い線の部分が“基本的には”立体になると書いたは理由があります。
テーラリングの世界には、“クセ処理”というものがあります。工場生産の既製服ではほとんど行わない工程であり、オーダーの世界ならではかと思います。
クセ処理というある意味チート
この動画ではジャケットの後身頃のクセ処理を行っています。
クセ処理を行う事で、元々あるダーツ部分の立体分量を他の場所に移す事が出来ます。
何度もお伝えしていますが、縫い線はダーツと同じですので、(本来立体に出来ない) 縫い線が無い場所であっても立体的に仕上げられるのがクセ処理です。
動画では背中心のダーツ分量を肩甲骨の丸みや、前肩のフォローをするためのクセ処理を行っています。本来肩甲骨のある部分には縫い線が無いため、クセ処理を行う事で立体にしていきます。
同じように、パンツの型紙は前と後ろしかなく、お尻下、太もも裏に関して縫い線が無いため、クセ処理なくしてこの部分を立体にすることは出来ません。
お尻下のゆとりをクセ処理を行わなわず、取る方法としてヒップ、ワタリ寸法を小さくするのですが、その弊害として横にシワが入ったり、ポケット口が開いたりします。お尻下のゆとりと一緒に本来必要な他のゆとりもなくなり、横の分量が足りなくなる為です。これについてまた後日深掘りしていきたいと思います。
いかがでしたでしょうか。ダーツ、クセ処理について解説いたしました。様々な不具合に対して、様々なアプローチがあり、洋服づくりはとても奥深いものです。
洋服づくりは誰と作るか?が大切です。姫路市でこだわりの洋服をお考えの際には是非一度お問い合わせいただけますと幸いです。
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