【ナポリっぽくしたい?】ジャケットのラペル位置をアイロンで変えてはいけない2つの理由
洋服の印象は素材によるところが大きいですが、型紙によっても雰囲気を変えることができます。
スーツであれば肩を構築的な角度で作ったり、逆に柔らかくしたりすることによって、英国やイタリアのエッセンスが加わっていきます。タイトルにあるラペルの返り位置もその一つで、返り位置を下げてVゾーンを深くするのか、上げて浅くするのかで印象は大きく変わります。
一部のナポリのジャケットの型紙などでは、あえて本来の返り位置よりも大きく下に設定し、ボタンを開けた際にラペルが大きく返るようにしたものもあります。大切なことはどういう印象を持たせたい“型紙”を作るかです。
ナポリっぽい雰囲気を出したい?
こちらのジャケットは段返り3つボタンといい、3つ付いているボタンの真ん中を留めるように設計されています。なので、真ん中のボタン位置でラペルが返ってくるように、また一番上、一番下のボタンは留めると不具合がでる位置に設定されています。
ラペルの返り位置は、“控え”をみることで分かります。これは第2ボタンの位置で、ボタンより上側の端に見返しが少しだけ見えています。これがあることでラペルが返った際にから身頃部分が見えることはありません。見返しの縁から身頃が見えているジャケットはとても不細工で、生地の厚みによって控える寸法を変えて、見えないように調整する必要があります。
同様に、第2ボタンより下側の身頃からは、見返しが見えないように端で控えています。
先日、とあるSNSを見たお客様からこういうの出来るの?という問い合わせがありました。
『ラペル返り位置をアイロンで下にもってくることで、ナポリっぽい雰囲気になる』というものです。アイロンで簡単に雰囲気を変えれたらそれはコーディネートが楽しくなり良いことだと思いましたが、今回の内容に関してはお客様にあまりお勧めしませんとお伝えしました。
その理由を2つブログでもご説明します。
ジャケットのラペル位置をアイロンで変えてはいけない
ラペルの返り位置をアイロンで下に持ってくるのことは難しくありません。もともとの返り位置にあるクセを消して、立体感が崩れない程度にふわっとアイロンをかけるだけです。これにより一番下のボタン位置まで下げることができました。
イタリア・ナポリのブランド、DALCUOREに代表される大きく開いたVゾーンです。一見成功しているように見えて、細かく見ると不細工なところが2カ所出来てしまっています。
一つはラペルと上衿の浮きです。もともと深めのVゾーンのジャケットの為、大事故まではいきませんが、ラペルと上衿がちゃんと返らずに身頃から浮いてしまっています。これは本来よりも急な角度の位置でラペルが返っているため起こります。
身頃に吸いつきすぎなのも見た目はよくありませんが、収まりの良い適切な吸いつきでラペルと上衿があるほうが美しいです。
もう一つは、ラペル返り位置の見た目です。もともとの返り位置とは異なるため、返っているラペルの端から控えないといけない身頃が見えてしまっていて、かつラインも凸凹です。ここはラペルの先端から返り位置にかけて流れるようなラインできてほしいところです。
型紙は複雑に絡みあい作られており、返り位置を変えることで不具合が起きていまいました。
これを是とするのか非とするのかは、スーツもファッションである、自由である、という考え方もありますので人それぞれだと思います。私の中高生時代に流行った腰パン (懐かしい) も、本来のウエスト位置でなく下げて履くのが格好良い、というものですしね。屈んだらパンツが見えてしまうくらい下げていたのは良い (?) 思い出です。
今回の件でいいますと、EGRET的にはアイロンでラペル位置を変えることは洋服の完成度を下げてしまう行為に感じてお勧めしません。ナポリの雰囲気を出したいのであれば、型紙段階から設計したものをご提案させていただきます。
いかがでしたでしょうか。
こんなテクニックや小ネタSNSやブログで見たけど、実際のところどうなの?など、ブログの小ネタにさせていただきたいので、お気軽にお問合せいただけますと幸いです。
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