【アンボタンマナーの誤解】スーツ、ベストの一番下のボタンは本当に外すべきか?

春が近づき、スーツを着る機会が増えるこの時期。スーツの着こなしに関するハウツー情報も多く見かけるようになります。
今回は、その中でも最も有名であろう「アンボタンマナー」について、洋服屋の視点から考えてみたいと思います。
アンボタンマナーとは?
アンボタンマナーとは、ジャケットやベストの一番下のボタンを外しておくべきだと広く認識されているルールです。「マナー」という言葉が強制的なニュアンスを持つため、個人的には好みでない表現ですが、広く知られた言葉として存在している以上、無視することもできません。
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アンボタンマナーが生まれたのは19世紀。ボー・ブランメルという洒落者がその起源とされています。彼のスタイルを国王が真似するほど、彼の着こなしは影響力がありました。あるパーティーで、国王がジャケットのボタンを掛け忘れていたのを正当化するために、ブランメルも同じようにボタンを外し、それが広まりました。これが現在の「一番下のボタンは外すべき」というルールのルーツだといわれています。
しかし、思考を止めないでほしい
当店のブログを読んでくださるほどの洋服好きの皆様には、このルールを鵜呑みにするのではなく、さらに深く考えていただきたいと思います 笑 。
例えば、20世紀のファッションアイコンであるウィンザー公(エドワード8世)。彼はウィンザーノットの生みの親ともいわれ、クラシックな着こなしに多大な影響を与えました。彼の写真を見ると、ある特定のスーツの着こなしが見えてきます。
パドックカットのスーツ
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ウィンザー公が着用しているのは「2釦2掛け」のパドックカットと呼ばれるスーツです。現代の2ボタンジャケットは、裾のラインに合わせて下のボタンを斜めに配置するため、下のボタンを留めるとシワが入り、不細工です。
しかし、パドックカットはボタンのバランスを上げ、2つのボタンがまっすぐ配置されています。そのため、下のボタンを留めることが基本とされています。
ダブルのスーツのボタンは留めてもよい
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英国王室のチャールズ国王のダブルスーツの着こなしを見てみましょう。彼のスーツは「6釦2掛け」のダブルですが、一番下のボタンを留めています。このタイプのダブルジャケットでは、下のボタンがまっすぐ配置されているため、留めても問題ありません。
洋服の着こなしには一定の自由があり、ダブルのボタンを留めるかどうかは個人の好みの問題です。たとえば、袖口の本切羽のボタンをあえて外す、ベストを着たときにジャケットのボタンを開けるなど、同じように着こなしの幅として考えられます。
ベストのボタンも同様
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もし、ベストのボタンの配置が真っすぐになっているのであればそれも留めても問題ありません。5釦のベストは往々にして真っすぐに付いています。6釦になると横にずらした配置になっていることが一般的で、その場合は留めません。
ベストのボタン配置がまっすぐになっている場合は、下のボタンを留めても問題ありません。5ボタンのベストなどは一般的にボタンがまっすぐ配置されているため、一番下のボタンは自由です。一方、6ボタンのベストは一般的に斜めにずらして配置されていることが多く、その場合は一番下のボタンを外すのが一般的です。タイトルにしているベストも6ボタンで外すことを想定とした設計となっています。
まとめ
設計上、ボタンを留めることを想定していないデザインのものは、ボタンを留めない。これこそが本来の「アンボタンマナー」ではないかと考えます。
洋服にあまり興味がない方にとっては、気にしなくてもよい内容だったかもしれません。しかし、洋服の歴史や成り立ちを知ることで、さらに深くファッションを楽しめるのではないでしょうか。
これからも、マニアック過ぎて面白くないブログにしていければと思いますので(笑)、次回の更新も楽しみにしていただければと思います。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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