【洋服の小ネタ】立体裁断 (りったいさいだん) って何?~立体裁断だから良い服という訳ではない話~
『この洋服は立体裁断で作られているから良い洋服です!』『立体裁断だから動きやすい!』など、立体裁断という言葉がしばしば洋服の品質と関連付けられることがあります。しかし、そもそも立体裁断とは何なのか?今回は、洋服屋ですら知らないこともあるこの言葉について深掘りしていきます。
立体裁断と平面製図の違い
出典: i.pinimg.com/
まず結論として、立体裁断だから必ずしも良い洋服というわけではありません。
立体裁断は、別名「ドレーピング」と呼ばれる型紙作成方法です。ボディにシーチング (仮布) をピンで留めながら形を作り、その結果をもとに型紙を起こします。一方、紙の上で直接製図していく方法を「平面製図」といいます。
これらはそれぞれにメリット・デメリットがあり、洋服の良し悪しを一概に手法だけで決めることはできません。得手不得手はおいておいて、どちらも服飾の学校を出ていればできる手法です。
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ドレーピングでは、視覚的に形を確認しながら効率よくデザインを作ることが可能です。例えば、デザイン画の型紙を起こす場合、平面製図では形を掴むのが難しいことがあります。特に、モードな洋服や複雑なデザインでは、直接布をボディに当てることでバランスやボリュームを把握しやすくなります。
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また、ドレープのあるデザインを作る際にも、分量の調整がしやすいため、精度の高い洋服が早く作れるという利点もあります。平面製図からトワル (シーチングで作成したサンプル) を起こすこともできますが、何回かやり直しするよりも直感的にバランスを取った方が効率的です。
ただし、立体裁断をしたとしても、型紙を起こし本番の生地で裁断していく必要があります。このため、最終的には平面製図に落とし込むプロセスが欠かせません。
言い換えるなら、頭のなかでシルエットができていて、それを平面製図に反映できるのであれば、立体裁断は必要ありません。クラシックな紳士服で立体裁断を使用ないのは、立体裁断が「できないから」ではなく、「必要がないから」です。シンプルな形のジャケットに「立体裁断で作りました」とアピールするのは、実際には意味を持たないセールストークです。
立体裁断という言葉は、あたかも特別で動きやすい洋服を作る魔法の手法のように聞こえるかもしれません。しかし実際には、洋服作りの一手法に過ぎず、言葉が一人歩きしている印象を受けます。
EGRETの洋服は全て平面製図で作成しています。しかし、それは平面的な洋服を意味するわけではありません。洋服の立体感(丸さ)は、製図の手法ではなくクセ取りや縫製技術の高さによって決まります。そして何より、着る人それぞれの身体に合った立体感があってこそ、良い洋服であると考えています。
パリのオートクチュールのようなモードなデザインをお作りすることはできませんが、長きにわたり着用できるクラシックでこだわりの一着をお考えの際は、ぜひ一度お問い合わせください。お客様の身体に最適な洋服をご提案いたします。
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