『オーダースーツだからお直しが出来る』ではなく、縫い代が残っているからお直しが出来ます。
思い入れのある拘りの洋服だからこそ、姫路のオーダースーツ店EGRETではお仕立て頂いた後のお直しも当然承っております。一部のイタリアファッションの考えであれば、早いサイクルで古いものを捨て、新しいものに買い替えていく事が職人の仕事も増え良いのではないかというものもありますが、英国の古いものを大切にする考え方のほうが私の好みに合っています。
その最たる例はチャールズ国王であり、何十年も履き続けて割れてきた箇所に革パッチを張る、通称チャールズパッチが有名です。スーツもポケット部分が破れるくらいに長く使われているのが分かります。
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当店でもお客様の破れた洋服は、かけつぎという直しを行ないます。そういった傷だけでなく、比較的頻度の高い直しがお腹周りの寸法調整ではないでしょうか。
スラックスのウエスト直しについて
体型が何十年も変わっていないというお客様もいらっしゃいますが、年齢やライフスタイル、環境の変化によって体型が大きく、または痩せてしまうのは良くある話です。私もEGRETがオープンした2019年当初より5kgくらいは成長いたしました (笑) 。
オーダースーツはお直しが出来ると巷ではよく言われますが、正しくは縫い代が残っているからお直しが出来る、です。上の画像はスラックスを裏返したお尻側。
余談ですが、このスラックスはオーダーを頂戴した際に、ご参考にとお持ち込み頂いたものでして、ご普段愛用されているスーツがあるとサイズのお好みが分かりやすくなります (もちろん、サイズサンプルも多数ございますのでご普段着でお越しいただいても問題ありませんので悪しからず) 。
ウエスト直しで主に使うのは、背中心の縫い代です。特にこのスラックスの場合、脇の縫い代が少ないため、背中心から広げていきます。
残っている縫い代は、片方3.5cm、両方で7cm程度ですので、縫い代を1cmにすると最大で5cmは出す事が出来ます (8mmくらいの縫い代にする事もありますが、それ以下だと負荷がかかった際のパンクが心配です) 。後ろだけで5cm出すと全体のバランスが崩れやすいので、本来であれば脇からも出したいところです。ただし、今回の場合はウエストで3cm出しの調整でしたので、後ろ側だけで広げていって問題なさそうです。
縫い代に直接チャコで線を引きガイドを作ります。もとのラインを見ながらバランスが崩れないよう繋がり良くするのがポイントです。線の繋がりの関係でウエストを大きくするとヒップも何割か大きくなりますが、たいていの場合、お腹周りが大きくなればお尻も大きくなるため、問題はありません。
ちなみに縫い代が無い場合であっても、継ぎ足して直すというやり方もあるにはあります。
美しいシルエットの洋服は、着用者の体型にあってこそ輝きます。スラックスのウエスト直しは、腰裏布を開けて、アイロンして、線を引いて、縫製して、もとあった糸を解いて、もう一度アイロンして、腰裏布を閉じたら完成!とそんなに難しい事ではないです。小さいサイズのまま履いていると縫製した箇所にテンションがかかり針穴が大きく目立ってしまう場合がありますので、体型が変わられた際にはお早めにお申し付けください。
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