【工場見学】古き良きションヘル織機を使われている “葛利毛織” にお邪魔してきました。
“礼服”は以前のブログでもご紹介しましたが、日本にしかないフォーマルウェアのジャンルであります。日本にしかないのであれば国産の生地を選ぶのが適切です。英国、イタリアでもフォーマル用の服地は展開されていますが、黒の深さは特に意識をされておらず、国産の黒と比べるといささか色が浅くなります。加えてフォーマル服地にはドスキン、バラシア、マイクロヘリボーン等様々なものがありますが、こと礼服に使われるのはほぼほぼタキシードクロスです。
今回、工場見学に行かせてもらった葛利毛織ではこの黒のタキシードクロスが通年用に8種類展開されており、お客様の礼服のご要望に合わせてお作りでき厚い信頼を寄せております。礼服と言われれば一番にご提案するブランドです。
同業者の2人と一緒に行きましたが、全員が葛利毛織の事をさらに好きになったかと思います (笑) 。それではレポートしていきます。
愛知県一宮市の葛利毛織へ
葛利毛織の工場は、国の登録有形文化財に指定されていて、趣ある建物の中で生地が織られています。
工場に入ると一番に出迎えてくれる羊さんとアルパカさん。品種によって肌触りが異なっており、生地でもどういう質感のものを作るかに合わせて選別しているとのことです。
葛利毛織の代名詞と言えるションヘル織機で生地が織られています。テキスタイル業界では高速に織り上げる機械が主流ななか、昔ながらの低速織機を使用しています。古いから全て良いというわけではありませんが、昔の生地の風合いを表現する上においてションヘル織機は優位に働くといいます。
ガシャンガシャンと小気味良い音を鳴らしながら動くこれらのションヘル織機は昭和初期から修理を加えながら大切に使用しているそうです。
経糸の準備と、整経の様子。染色・撚糸された糸を巻き返し、反物一反辺りに使う経糸の準備をし、総本数分に必要な長さをビームに巻いていきます。通常は3000~8000本で密度が高いものは10000本を超えるものもあります。生地の良し悪しを決定づける重要な工程です。
経糸を綜絖 (そうこう) という器具に通す作業です。紙に書かれた組織図の通りに経糸と緯糸が織り込まれるように、経糸の1本1本を綜絖の小さな穴に手作業で通していきます。私も数本だけ体験させてもらいましたが、根気と集中力を要する大変な作業です。
筬通しといって一定の間隔で仕切られた隙間に糸を2~4本ずつ通していく作業。綜絖通しと筬通しの作業だけで熟練の職人でも約3日間かかるそうです。
この金具の組み合わせで、機械の織り方が変わり様々な柄の表現ができます。
左右に動いてい緯糸を通していくシャトル。
Iから始まる某有名国内デザイナーブランドの生地アーカイブ。ニット (編地) に見えてちゃんと織られています。
ナポレオンが纏った赤い生地を再現しています。代表の葛谷さん曰く、昔の繊維が無いため80%の出来なのだとか。それでも美しい質感です。
お客様用のスリッパもウールで作られています。あまり知られていませんが、ウールは夏は涼しく冬は暖かい、防臭効果にも優れた機能性ある繊維です。
天皇陛下を始め多くの皇族の方の生地も提供されており、菅元総理からも表彰されておりました。
代表の葛谷さんは、ションヘル織機で織り上げた生地は最初こそ高速織機のものと違いが分からないが、洋服に仕立て上がり数年着用してから「ああ、良い生地だ」と実感いただけるかもとおっしゃられていました。“かも”とおっしゃられていたのが、実直で誠実なモノづくりを葛谷さんらしい言い回しです。
葛利毛織の織り物は派手さはありませんが、クラシカルで仕立て上がりの綺麗な生地がラインナップされています。礼服に使用するタキシードクロスだけでなく、フランネルやサキソニー、サージといった基本のキといえる定番素材でお作りになられる際は葛利毛織の生地見本帳も是非ご覧ください。
葛利毛織の皆様、この度はありがとうございました。
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