『どれにしよう?』ステッチで変わるジャケットの雰囲気について。
オーダースーツをお作りになられる上で、どういう生地にするかがスーツの印象を決める一番の要素です。黒に近く深いミッドナイトネイビーの無地を選べばとてもフォーマルな洋服になりますし、主張の強さを出すためにストライプを選んだり、洒落たイメージのチェック柄だったり生地選びが最も大切です。
それに比べると本日の小ネタは、ステッチをどれにするか?という生地選びに比べれば味付けレベルの事柄ですが、それでもイメージを少し動かせます。生地や大枠のデザインとの兼ね合いで、こちらの方が似合いやすい、逆に似合わないといった事もある大切な部分ですので是非最後までご覧ください。
襟からフロントにかけてとポケットのみ、コバステッチ。
コバとは縁の事であり、端から1~2mmあたりにAMFというぷつぷつと等間隔に入るミシンのステッチを打つのが一般的です。同じコバでも、通常の地縫いミシンで打つとカジュアルな印象となります。
こちらはフルステッチと呼ばれ、フロント部分だけでなくフロントダーツ、後見頃、袖、肩線といった各所にコバステッチを打っています。
フロントだけのものと微妙な違いですが、より引き締まったイメージの洋服となります。
こちらはAMFミシンではなく、手縫いで仕上げています。生地の特性上見えにくくなっておりますが、縁部分にステッチの凹凸が出ているのが分かるかと思います。AMFミシンよりも柔らかい印象を与え、端から1mm以下の場所に縫い上品に見せる事が出来ます。
ここからは変化球です。
ステッチ巾をコバから5mmに変更しています。幅が広がれば広がるほどスポーティでカジュアルな洋服となります。フォーマルなスーツにはあまり使用しません。
同様にこちらは10mm巾でステッチを打っています。ステッチがより目立ちスポーティになっているのがお分かりいただけるかと思います。
既製品のスーツではほぼ見る事がないダブルステッチで仕上げています。フロントのステッチがコバと0.8mmの2本入っています。
デニムでも見かけるダブルステッチは本来補強の意味合いがあったものを、イタリア・ナポリのスーツでは様式美として取り入れられスポーティな印象となります。当店のナポリモデルのスーツと相性の良い仕様です。
こちらはウールリネン生地で、こういったカジュアルな生地とダブルステッチは相性が良いです。同じダブルステッチでも生地が変わると見えるイメージも変わります。
いかがでしたでしょうか。AMFステッチ、ハンドステッチ、ミシンステッチ、幅をコバにするか5mmにするか、ダブルステッチにするかといったディティールを選び、お客様だけの洋服が仕上がってきます。どういうイメージを持たせたいのか、生地の特性と相性が良いか、様々なご提案をさせていただきますので、拘りの洋服をお探しの方は是非一度お問い合わせいただけますと幸いです。
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