【スーツのサイズ】1ランク上のフィッティングで着心地上昇。『ジャケットのボタンを外してみて下さい』

先日メールでのお問い合わせの際に、『スーツの小ネタ楽しみにしています!』とおっしゃっていただけたのが嬉しくて、久しぶりに小ネタをお送りしてまいります。店主は単純でございますので、褒めていただけると更新頻度が高くなります (笑) 。
さて、本日の小ネタは、タイトルの通り、1ランク上のジャケットのフィッティングにするために必要なことを解説してまいります。
早速ですが、上の青いスーツの画像。
右のシャツが長く出ていること以外に改善できるポイントがありまして、、、注目していただきたいのが前ボタン付近。
ボタンを外した際に、前が広がり気味であることです。
胸を張った際にも同じように前部分は広がりますが、正対し、普段の姿勢で広がっているのであれば改善した方が着心地の上昇に繋がります。広がっていない例はこちら。
これら2つの画像では微妙な差ではありますが、街中やSNS等を見るとこれよりもさらに広がっているスーツを見つけることができます。このボタンを外すと広がる2つの原因と、直すことで着心地の上昇に繋がる理由をご紹介します。
原因一つ目。
全体に小さすぎるサイズを着用している、またはお腹回りを絞り過ぎている、です。
例えばバストの寸法が90cmの方がいたとして、ジャケットの仕上がり寸法も90cmにしてしまうと全く着用できないものになります。服は人間が動き生活することが前提で作られるため、“ゆとり”を設けて作られるわけですが、このゆとりが少なすぎた場合、前部分が大きく開く現象に繋がります。
単純に布が足りていないから、後ろに引っ張られ大きく開いてしまうという理屈です。
この状態でボタンを閉じるとボタンを留めた付近に大きくエックス状にシワが寄り、見た目が良いとは言えませんし、ボタンに向かって身体も引っ張られ、肩に負荷がかかり着心地の低下に繋がります。
原因二つ目。
ジャケットが着用者の肩に合っていない、です (青のジャケットの原因はこれ) 。
服は身体に沿わせるために専門用語でいうところの“ダーツ”を取ります。服を接ぐのもこのダーツと同じ役割を持っており、一般的な紳士服のジャケットの場合、前、横、後ろと3つのパーツを左右それぞれ接ぎ (ダーツを取った状態) 、服を身体に沿わせていきます。Tシャツなどは型紙で身体に沿わせる必要がほとんどないため、前後2つのパーツしかありません。
ジャケットのパーツをどういうバランスで作るか (特に後見頃が大切) で肩に合うかどうかも決まります。
肩に合わないと前が開く現象は、肩に服が引っかかってしまい、前まで布が回ってこないからです。しっかりと肩を包み込むことにより、フロント部分まで綺麗に収めることができます。
バスト・ウエスト・ヒップとそれぞれに適切なゆとりが取られていたとしても、バランスが悪ければ肩で引っかかりを作ってしまい、肩こりの原因となるため注意が必要です。
裏を返すと、バランスさえ良ければ、ゆとり分量をある程度少なくしてお仕立てしても、前が開かない着心地の良いジャケットを作ることが可能です。
こちらはお客様のご要望により、ウエストの絞りを強めに出しておりますが、前ボタンを開けても広がりが少ないジャケットに仕上げています。
いかがでしたでしょうか。あまり知られていないスーツのサイズのポイントをご紹介いたしました。
当店の場合、フルハンドメイドオーダー、パターンオーダーでもクラシコ仕立てでは特に補正の範囲が広いため、こういった1ランク上のフィッティングを実現させることが可能です。
しかし、、、完璧なフィットを目指すとはいえ、クラシコ仕立てであっても仮縫いを挟まない場合、1着目は少し開いてしまう場合もあります。身体の癖を読み取るのは非常に難しいうえに、一人ひとり体型・姿勢が違いますので、“1着目で100点満点は中々に難しい”という点を予めご了承いただけますと幸いです。
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