『スーツの小ネタ』本来のゴージラインはどの位置か?~歴史を見ると高すぎず、低すぎず~
本日のスーツの小ネタは、スーツやジャケットの印象を左右する“ゴージライン”について。
身頃のラペル部分が返り、上衿が付く。現代のジャケットの基本構造ですが、ゴージラインは前から見えるラペルと上衿の縫い代のラインの事を指しています。
ゴージラインは高い、低いという風な使われ方をしております。
このゴージラインは中々に曲者でして、色んなブランド、モデルによって様々な形状を見つけることができます。既製品の場合は細いシルエットのものはゴージラインは高く、ゆったりしたものは低くなる傾向があり、高ければ若々しく、低ければ落ち着いて見えるなんて言われております。
たくさんのゴージラインがある中で、本来のゴージラインはどういう位置にきていたのか、をご紹介していきます。本来の位置と役割を分かっていれば、お客様がどういう見せ方をしたいかで選択の幅が広がってまいります。
ジャケットの襟に付いているボタンホールがポイント
ジャケットのラペルを見ると基本的にはボタンホールが開いています (フラワーホール) 。現代では社章を付けたり、ブートニエールを付けたりする事はあれど、ほぼ飾りとしての役割しかありません。
現代の多くのジャケットは一番下のボタンは外しておく事が主流なのにも関わらず、未だボタンとボタンホールが付いています。使わない物も名残として残るのが洋服です。
実はラペルのボタンホールも対となるボタンも過去には存在して留める事が出来ていました。詰襟のようなジャケットです。
このボタンを留める事が無くなり、ボタンホールには花を挿すという文化だけ残ったため、ボタン側は省略されるようになりました。
留める事が無くなったとはいえ、本来は留め“られる”ボタンホールなので、ゴージラインの本来の意味合いは“襟ぐり”だということに変わりはありません。
襟ぐりという事は高すぎず、低すぎずで、閉じる事が前提となった位置が本来のゴージラインです。高すぎれば喉元につっかえますし、低すぎれば前を閉じると大きく首元が開いてしまう事になります。
本開きのように、使う事がないボタンホールも開けておく感覚に近いものがあるのかもしれません。
以上、本来のゴージラインは襟ぐりに相当する位置にきていたというお話でした。
あくまで本来の位置という話ですので、高いゴージライン、低いゴージラインが悪いという訳ではありません。本来の意味合いを知った上で、ご年齢やお立場、見せ方によって変える事もオーダーの楽しみの一つではないでしょうか。
楽しく装いを作り上げていく、店主はそんな洋服屋さんでありたいと思っております。
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