フルハンドメイドオーダーは何が違う?~ジャケットのディティール編~

当店はお仕立てしている工房毎に複数のオーダーのレーベルを設けています。
EGRETのディフュージョンラインではありますが、自由度が高いカスタムレーベル (左右で半分違う生地なんてのも過去に作りました) 。イタリアンクラシコを感じさせる軽やかな着心地と美しいシルエットを作る国内屈指のパターンオーダー工房であるaldexで作るクラシコレーベル。そして一から型紙を起こして全て手縫いで仕上げるフルハンドレーベルです。
先日、いつもクラシコレーベルでお作りいただいているお客様より『フルハンドスーツが良いのは分かるけども、どういう所が違うのか教えて欲しい』とご質問がありまして商品をお見せしながらお伝えしたのですが、ブログでもご紹介いたします。
型紙を一から起こす事の優位性が一番ではありますが、今回はディティール面を中心に解説してまいります。
全て手縫いで作るとどうなるのか?
こちらはサンプルとしてお作りしたフルハンドメイドオーダースーツ。全体に丸く作られ、ロールが美しいですね。
詳細を見ていきます。
通常、ラペルや上衿にAMFミシンでステッチを打つ場合、コバステッチ (端の意) といいつつも端から2mmを打つのが一般的です。これは洋服が裏側にくる布を0.5mm程度控えて表から見えないようにする事もあり、端を狙い過ぎて縫っていくとステッチが落ちてしまい、やり直しをしないといけない危険性があるからです。
手縫いであれば針の位置を確認しながら縫っていく為、端から1mm以下の位置でもステッチが落ちる事はなく、本当の意味でコバステッチを打つ事ができます。
このジャケットはチェック柄でステッチの位置が分かりにくいですよね。それには理由がありまして、、、
チェックの格子が歪曲していて、上衿の端に合わせて横の地の目が綺麗に通っています。ステッチが見にくいチェック柄にしたのはこの仕様が分かりやすくする為でした。アイロンでクセ処理をしてカーブを描いた“本襟掛け”というものです。
クラシコレーベルでオプションでお受けしている本衿掛けはフルハンドの場合は基本仕様。本襟掛けをする事により見た目の美しさはもとより、首への吸い付く力が上がり着心地がより良くなります。
袖のイセ込み量もミシンで縫う時よりも多く入れることができます。画像の袖がぷっくりと大きく膨らんでいるのが分かるかと思います。多ければ良いという物ではありませんが、着心地を上昇させるほどのイセ込み量をミシンで入れるのはかなりの技術が必要です。
腰ポケットの両玉縁にもハンドならではの工夫がなされています。下のマシンで縫製した画像と比較すると分かりやすく、上側の玉縁ポケットは身体の丸みに合わせてカーブを描いています。
よく胸ポケットに使用するバルカのような幅が太い形状のポケットであればマシン縫製でもカーブを描くことは可能ですが、これだけ細いポケットをカーブさせるのは手縫いならではのディティール。丸い体に沿ったカーブするポケットが美しいです。
内ポケットはさらに顕著に分かります。
当然、ボタンホールも全て手縫いで仕上げております。綺麗に縫われたボタンホールもフルハンドオーダースーツの良し悪しをみる大切なポイントです。
以上となりますが、いかがでしたでしょうか。
マシンと手縫いの仕上がりの違いをディティール面でご紹介いたしました。
クオリティ面においてフルハンドは素晴らしい物がありますが、当店他レーベルのカスタム・クラシコレーベルにおいても満足度の高いスーツをお仕立てしていると自負しております。大切なことはどんなシーンに着用する洋服かどうか。EGRETはお客様にとって最高といえる洋服をお仕立ていたします。
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