【フランスの美学】フィッシュマウスラペルはこういう形。〜ジャケットの衿型について〜
ジャケットの顔といえるVゾーンは、上衿と下衿 (ラペル) で構成されます。
最も一般的な形であるノッチドラペルに、ダブルブレストのピークドラペル、タキシードで用いられるショールカラー等、スーツやジャケットの種類によって様々な種類の襟が存在します。
本日は、フランスの美学ともいえるフィッシュマウスという衿についてご紹介していきます。
フィッシュマウス (fish mouse) とは?
(出展:thefamouspeople.com)
上衿と下衿の継ぎ目の形状が、魚の口 (フィッシュマウス) の形状に似ていることからこの名前が付けられました。ノッチドラペル・ピークドラペル・ショールカラー・ステンカラーといった衿よりも現代的なデザインに位置づけられます。
スーツとはもともと英国で生まれました後、下請けをしていたイタリアのスーツ文化が発展し、アメリカでは既製服という多くの人が着用できるスーツとして一気に飛躍を遂げました。
ファッションの都、フランスのスーツはというと、英国とイタリアどちらの影響も受けながら、フランス流の美的センスが合わさり確立されました。フランスを体現した代表的なウェルドレッサーとしてシラク大統領がよく上げられます。広くとった肩巾に英国よりもウエストのくびれが大人しく、腰回りにかけて密着するアワーグラス型のシルエットを構築し、ヨーロッパ随一エレガントにスーツを着こなしたとも称されています。
また、フランスならではのスーツのディティール、本日のテーマであるフィッシュマウスも写真から見て取れます。
イラストは、左からノッチドラペル、フィッシュマウスラペル、ピークドラペルと続きます。
この他にもノッチドラペルの襟先が上がっていき、ピークドラペルの間にくるセミノッチド、セミピークドという形があります。これらはフィッシュマウスと混同されることがありますが別物です。
ノッチドからピークドに寄せていくことを目指したこれらの襟に対して、フィッシュマウスは上衿、ラペルともに90°の角度に設定させることが基本の型です。著名なフランスのテーラー曰く、チェック柄の四角を崩さない為に作られたとも言います。フランスのテーラーは他の国のテーラーよりもチェック柄を多く使う傾向があるのはその美的感覚によるものかもしれません。
フィッシュマウスは固いご職業の方には中々難しいディティールかもしれませんが、スーツのカジュアル化の進む現代の一般的なご職業であれば取り入れて、優雅なフランスの美学を感じていただいても良いのではないでしょうか。
チェック柄でのスーツやジャケットをお考えの際は、特にフィッシュマウスラペルも是非ご検討の一つに入れていただけますと、オーダーの選択肢も多くなりより楽しいお仕立てのお時間になるかと存じます。
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