【礼服の流儀】●●があるとNG? 冠婚葬祭の黒スーツをプロが解説します。

『冠婚葬祭用の黒スーツが欲しい』
結婚式や式典といったフォーマルな場に着用するからこそ、ちゃんとしたオーダーをしようと当店でも大変よくいただくご依頼内容です。数えてみると、ブログを書いている現時点でもお渡し待ちの黒スーツが4着あったりします。
幅広いご年代の方にご依頼いただくこの冠婚葬祭用の黒スーツ、また礼服について深堀りをしていきます。
黒スーツと礼服は何が違うのか?
フォーマルスーツを礼服という呼ぶ事がありますが、そもそも礼服とは何のか?
起源を辿ると、戦後まだ日本が貧しい時代に遡ります。
国民は貧しいので、衣食住の中で一番後回しにされる衣、スーツ業界は苦心し“礼服”を生み出します。キャッチコピーはお葬式に黒いネクタイ、結婚式に白いネクタイと、ネクタイを変えるだけで使いまわしできる便利な服。
冠婚葬祭どんな時でもこれさえ着ていたら大丈夫、何も考えずに着用できる礼服は世間に広く浸透し、現代に続いていきます。当然日本にしか存在しない言葉です。
スーツと礼服は違う物なんて話もありますがそれは誤りで、スーツという大枠の中に礼服というジャンルがあるというのが正しいです。
冠婚葬祭用のスーツを仕立てるポイント
冠婚葬祭用のスーツ (礼服) を作る上でポイントになってくるのが、お葬式にも着用されるかどうか。
喪に服すべきお葬式に着用されるのであれば、そぎ落とさないといけないのがステッチ。通常衿回りに入れる事が多く華やかさが強調されてしまうため、お葬式には適さないという理由です。
その他、礼服の要素としてあるのが、サイズ感、生地、ノーベント、モーニング、玉縁ポケット、アジャスターです。
サイズ感
一般的なスーツであれば、ピタピタなサイズ感でもある程度許容されている所がありますが、冠婚葬祭はほとんどの場合相手方が主役であるため、礼服でそれはいけません。個性を出す事よりも、クラシカルなフィット感を目指すべきだと考えています。
生地
黒ければ黒いほど良い。
礼服でよく言われる言葉です。礼服文化は日本にしかないため、海外物の生地を使うよりも国産生地を選ぶのがベター。海外物は、フォーマル生地であっても黒さにこだわっていないため、お葬式を含めた礼服には適しません。
ノーベント
センターベント、サイドベンツ、フックベント等、スーツの背中部分の切れ込みは本来動きやすさを追求して生まれた物。大きな運動を伴わない礼服においてはノーベントが適切です。同様の考えでタキシードにもベントがあってはいけません。
蓋付きのポケットも本来は雨、風を防ぐディテールのため、無い方がフォーマル度が高くなります。
モーニング
モーニングはスラックスの裾の仕上げの一種。裾の前側を短く、後側を長くして斜めにすることにより、前側に高さがある紐靴を履いた際、裾のたまりを綺麗に見せるという方法です。
折り返しのあるダブル仕上げはスポーティになるため、シングルのモーニングが適切です。
アジャスター
ウエスト周りを10cm近く調整できるアジャスター。スーツ好きからは邪道と言われる事もあるディテール (英国風にいうなら体型維持をしなさい) ではありますが、普段スーツを着用されない方も持たれる礼服であるからこそ、あっても良いのではないかと私は思っています。
大切な事は相手への想いと気遣いであり、アジャスター付いているからそれが損なわれるわけではありませんし。加えて、冠婚葬祭用であってもお葬式に使わないスーツであれば、黒である必要はなく艶のある濃紺のスーツでも良いと思います。
いかがでしたでしょうか。冠婚葬祭用のスーツ、礼服についてご紹介いたしました。何かご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
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