良い仕立てのスーツには 『イセ込み (いせこみ) 』 が多い?特徴と効果について解説

良い仕立ての条件として、“イセ込みが多い”というものがあります。
このイセ込みとは一体何なのか?イセ込みを入れる理由について詳しく解説していきます。
この内容をご覧いただく事により、スーツの構造についての理解が深まり、スーツ作りがより楽しくなりますので是非最後までご覧ください。
イセ、イセ込みとは?特徴について
イセ込みとは型紙作成時や縫製時に使用するテクニックの事で、同じ長さのパーツを縫い合わせるのではなく、片方に+α長く設定して縫製することにより、立体的な形状にする事が出来ます。
例えば、、、スーツの身頃側アームホールを60cm、袖ぐりの長さを63cmに設定し、身頃側の60cmに合うように3cm“イセ”ながら縫うと、袖側に画像のような丸みが帯びていきます。
イセ込みとは別に“伸ばし”というテクニックもあり、片方を短く設定し引っ張りながら縫い、主にフィットさせる用途で用いられます。イセ込みや、伸ばしを駆使することで、立体的な洋服づくりをする事ができます。
スーツにおけるイセ込み
スーツにおいて、イセ込みは主に袖と肩に入れられます。
分かりやすい部分であるスーツの袖は、シャツの袖のようにペタッとするのでなく、イセ込みが入れられ丸く立体的に仕上げられています (シャツもちょびっと入っていますが) 。
当店のスーツの場合は3cm程度イセ込みを袖に入れています。通常のスーツ袖の仕様 (セットインスリーブ) では、ぐし縫い (仮で荒く縫い、3cm分のギャザーを寄せる) をした後にギャザー部分をアイロンで消す操作をおこないます (この処理を“イセを殺す”といいます) 。
あえてイセを殺さずに+α分をギャザーとして残し、縫い代の倒し方向を工夫することで、マニカカミーチャという袖を作ることもできます。
マニカカミーチャについてはこちらのブログや動画で詳しく掲載していますのでご参考になさってください。
【マニカカミーチャ】スーツのシャツ袖は本当に動きやすい? 『いいえ、違いますよ』という話
何故、袖にイセ込みを入れるのか?
では、何故袖にイセ込みをいれるのか?理由は二つあります。
一つは肩の丸みと可動域を出すため
まず、ご自身の肩を触ってみてください。
丸みがあるのをお分かりいただけると思います。丸い肩に対して包み込むような美しい袖を作る為には、イセによって丸く仕上げる必要があります。
イセ込み分量を多くすると袖幅も多くとることができ、全体の袖ぐり寸法も広がり可動域が大きくなります。イセ込みが多いと動かしやすさが増していくのはこれが理由です (多ければ多いほど良いというわけでもなく、その方にあった適切なイセ込み分量があります) 。
余談になりますが、イセ込みを多く入れようとすると“殺す”作業や、縫製も難しくなります。オーダースーツと一言でいっても値段が全く違う理由の一つに、イセ込みのアイロン技術や、手縫いを活用して袖付けをしているかどうか等、手間のかけ方が違うという事に関係していきます。
イセ込みを入れるもう一つの理由、
袖の収まりを良くする為です。
着用したままの激しい運動を想定していないスーツは、腕を下して直立した状態でシワが寄らないように設定しています (洋服にシワが入っていない=基本姿勢) 。
対して、動くことを想定されたTシャツやスポーツウェアは腕を下した状態だと、二の腕の上あたりにシワが大きく寄ります。シワは運動機能の裏返しであり、シワがたくさんあるのは腕が動かしやすいという証拠でもあります。
型紙 (パターン) テクニックの話になりますが、袖山を高くすると腕を下した状態のシワが少なく (運動機能が低い) 、袖山を低くするとシワが多くなります (運動機能が高い) 。スーツは、Tシャツやブルゾンなどよりも袖山を高くするのが基本です。
ここから重要になっていきますが、仮に袖山を極限まで高くしても、イセが無いと腕を下した際にシワが残ります。地面に対して腕が垂直になるのだからシワがでるのは当たり前。これを改善させるためにはさらなる角度を付ける必要があり、イセ込みを入れて丸みを出さなければいけないという理屈です。
スーツとしての美しい袖を作る為には“イセ込み”が必要不可欠というのが、イセ込みを入れる大切な理由です。
イセ込みまとめ
いかがでしたでしょうか。イセ込みについて解説させていただきました。
まとめると、立体を作る為にイセ込みは必要であり、腕を下した状態で収まりの良い、シワのない洋服にする為スーツの袖にはイセ込みが入っているという内容でした。
マニアックで少し分かりにくい内容だと思いますので、ご不明な点等ございましたらお気軽にお問い合わせください。これからもスーツにおける有益な情報を発信してまいりますので、良い仕立てのスーツを作るご参考にしていただけましたら幸いです。
型紙のお話がお好きな方にお勧めな、“小さなアームホールが動かしやすい”という話はこちらから↓↓
サイズの大きなスーツが動きやすいという嘘。 (結論:アームホールは小さい方が良い)
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