【D管止め】スーツ・ジャケット・パンツのポケットデザインを一工夫
一般的なスーツには関らずと言ってよいディティールになっている、D管止め (かんどめ) 。
逆に無いと安価なスーツにも見えてしまうデザインが、D管止め。
神は細部に宿るというように、スーツのディティールを深堀りしていきます。
D管止めとは?
D管止めは、上の写真のようにスーツの腰ポケットや、パンツの後ポケット、内ポケットに施されるディティールです。
主に両玉縁 (りょうだまぶち) ポケットという仕様の端に施され、“D”の形状にステッチを打つことからこの名称がつけられています。
また、Dの形状の中でもポケット端すぐのところが、一番かがっている (糸をグルグルさせること) のが分かると思います。これはカンヌキと言うディティールで、D管止めの“管”の事でもあります。
Dの“)”部分が無く、カンヌキだけものをI管止めなんて呼び方をします。
なぜD管止めをするのか?
なぜ、D管止めをするのかというと一番の目的は“補強”です。
玉縁ポケットは細くて美しいポケットのデザインですが、幅が太い“ハコポケット”や貼り付けタイプの“パッチポケット”に比べると強度が強いとは言えません。強度が求められるジーンズはパッチポケットです。
スーツに多大な強度は求められていないとはいえ、頻繁に破れていては洋服としての機能性に問題が出てきます。
それを補うのが、カンヌキでありD管止めという事です。
また、あまり語られていない事ですが、玉縁ポケットは生地に切込みを入れて、別布 (または共布) を切り替える仕様です。切り込んで縫った“縫い代”はそのままだと服の中で収まりがよくないので、それを抑える役割もD管止めは担っています。
せっかくのスーツを綺麗に着ていただくために
ちなみに、玉縁ポケットは収まりを良くして綺麗に仕立てる為に生地をバイアス(斜め方向)で使われることが多いです。綺麗には仕上がりますが、これにより (ポケットの使用頻度によっては) 伸びてポケット口が開くという不格好さが出る場合も。スーツの腰ポケットはあまり使わない方が良いというのは、ポケットの膨らみ云々やポケット口を伸ばさない為でもあるという事ですね。
せっかくの良いスーツは綺麗に長く着ていただきたいので、私もスーツの腰ポケットは使わない方が良いとお勧めしています。
D管止め【まとめ】
D管止めは、玉縁ポケットの端に施された“D”状のステッチの事で、補強の役割があります。玉縁ポケットなのにD管止めが付いていないスーツは特殊な意図があるか、安価なスーツを作ろうとしているかのどちらかです。
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