サイズの大きなスーツが動きやすいという嘘。 (結論:アームホールは小さい方が良い)
オーダースーツと同じように使われる言葉に、ビスポークがあります。
〝Be spoke (対話) ”からビスポークという言葉が生まれ、オーダーメイドという意味になりました。
オーダーメイドスーツの流れとして、お客様のご要望を聞き、対話を重ねて私たちスーツ屋がご提案をしていきます。
その中でよく言われるご要望は、
動きやすいようにしてほしい。
お客様の体型を見ながら、背幅にゆとりを持たせたり、腕巾を広くしたりしていくのですが、一つ小さくさせるものがあるのです。
それがタイトルにある、アームホールのお話。
結論を先にお伝えすると、アームホールは小さいほうが動きやすいです。
(※今回の話はパターンオーダーの内容が中心となりますのでご留意ください。)
なぜ、アームホールは小さい方が動かしやすいのか?
アームホールを小さくする
え?大きい方が動かしやすいんじゃないの?と思われた方!詳しく解説していきますね。
この2つの画像でご注目いただきたいのが、袖先の位置と、肩部分の出っ張り具合。
画像はどちらもバスト寸法同じで、袖丈が上が62cm、下が58cmです。
(上) バスト100cm 袖丈62cm
(下) バスト100cm 袖丈58cm
袖丈の長さが4cm違うのに腕を曲げた際の袖口位置が同じくらいに来ています (むしろ長い方が短くなっている) 。
手を下ろすと当然62cmの袖のほうが長いのに、何故このようなことが起こるのか?その理由がアームホールにあります。
上の画像はアームホールが大きすぎることにより、腕を上げると身頃 (体部分) の布に引っ張られてしまい袖が上がりにくくなっています。これは腕にストレスがかかってる状態で、動きにくいスーツの状態です。
型紙にしてみるとこんな感じです。赤の破線は下のスーツ画像のアームホールでの修正を表しています。
修正を加えた部分を専門用語で、〝鎌 (カマ) ”と呼ぶのですが、この鎌位置を上げてアームホールを小さくします(この小さな修正が大切) 。
型紙のように修正することで、指を入れている箇所が上がってきて、脇に近づいていきます。これにより腕を上げても身頃に布が引っ張られにくくなり動かしやすくなる、というメカニズムです。
例えばシャツの状態だと腕を上げやすく動きやすいですよね?
それがスーツを着ると動きにくいというのは、鎌位置が下にありアームホールが大きくなることが原因です。スーツでシャツほどのアームホールにすることは難しいとはいえ、近づけていくと着心地が上昇します。
修正の結果をまとめた画像です。(肩の余りに関しては肩線にも関係していますが) 多くの問題を解決するのが鎌位置上げと呼ばれる修正方法です。
やり過ぎると脇につっかえてストレスになり注意が必要ですが、多くのケースでは小さくした方が良いのでオーダースーツ作成時にサンプルのスーツを着られた際には、
アームホールを小さくする
を意識していただけると、より良いスーツが出来上がるかと思います。
いかがでしたでしょうか。着心地を上げるための一つの方法、アームホールを小さくするのは何故か?をまとめました。
今後のブログでも、型紙の細工により着心地を上昇させる方法などマニアックな内容をご紹介していきます。
〝高品質なスーツはハンガーにかけると袖が前にくる、の嘘”などなど、ご期待いただければ幸いです。
PS:最近太って顎下の肉が取れません。どなたか、顔の型紙修正の方法を教えてください(笑)
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