【オーダーコート】クラシックなポロコートを仕立てる|40年後も愛せる一着

以前ご紹介していた、クラシックな“ポロコート”を仕立てるというブログ
>>『40年後も愛せる一着を』クラシックなコートを仕立てる件。
英国 HARRISONS (ハリソンズ) の “SpringRam Coating (スプリングラム コーティング)” シリーズの生地を用い、仮縫いを経てようやく完成しました。
今回は仕上がりの姿だけでなく、仮縫いで行った補正の工程とともに「なぜこの“オーダーコート”が40年後も愛せるのか」をまとめてまいります。
仮縫いによるブラッシュアップ
仮縫いによって、布の落ち方や全体のバランスを確認でき、採寸だけでは見えない不具合をあぶり出します。特に今回のコートでは、自分で自分を測っているため、一層仮縫いが必要でした。
仮縫いでは、肩から袖へのつながり、背中のシワ感などを丁寧に点検。見栄えはもちろん、可動域や着心地も重要な要素です。背面ではベントの開きや裾の跳ね上がり具合をチェック。ここでの観察が仕立て直しの方向性を決めます。
仮縫い時に現れた課題は、ベントの開き・二の腕後部の余り・前裾の跳ね。特にベントは前後のバランスの乱れが原因で“反身補正”が必要でした。普段のスーツでは屈身補正を入れているのに、今回は逆。体型と型紙の相性がいかに仕立てに影響するかを改めて実感しました。
ピンを打って反身補正の度合いを確認。実際に布を操作することで、最適な補正値を探ります。
ハネをより少なくするためにヒップ寸を小さくするアプローチもしています。不具合に対しては、複数のアプローチ方法があり、それぞれをどう捜査していくかが大切です。
さらに衿ミツやアームホールの位置も調整。ダブルブレストでは衿ミツがずれると全体の軸が乱れるため、首に合わせて詰めました。アームホールは限界まで小さくし、動きやすさとフィット感を両立させています。アームホールは小さいほど可動域が広がりますが、やりすぎれば脇にが当たって不快になるため注意が必要です。
ポロコートの仕上がり
その他にも細かな微調整をおこない本縫いにはいり、ポロコートが完成しました。
迫力のあるアルスター衿に、袖口は折り返しのあるターンナップカフ、腰ポケットはフレームドパッチポケット、通常のベントでなく布が折りたたまれボタンがあしらわれているインバーテッドプリーツと正統派なデザインのポロコート。
ポロコートはもともとポロ競技の合間に羽織られていたスポーティな起源を持ち、タキシードや礼服などには不向きですが、今回イメージしていたチャールズ国王のようにスーツスタイルに合わせることで一層の魅力を放ちます。まさに“大人のためのクラシックウェア”です。
着用した姿がこちら。膝が隠れるクラシックなサイズ感です。
仮縫い時にでていた不具合も無事解消され、満足いく仕上がりです。
今回選んだのは、ベージュに見えて実はカーキの緯糸で織られた生地。自然光では明るく奥行きある表情に、夜の照明では渋さを増す。時間や場面で変化していく楽しみのある生地です。
また、もともと騎兵隊のトラウザーズに用いられたキャバルリーツイルという経糸の本数が多い強靭な織り方がなされ、長年の着用にも耐える耐久性を備えています。外見の美しさと機能性を兼ね備える点も“40年後も愛せる理由”です。
今回のコートは、当初のコンセプトである「40年後も愛せる一着」を体現すべく、38歳の今の体格をベースにしつつ、78歳になった自分が袖を通しても自然に見えるように、少しだけ余裕を残した設計にしています。
今シーズンから早速活躍してくれますが、真価はこれから。日々のブラッシング、肩幅に合ったハンガー、通気性の良い場所での保管、こうした積み重ねで長く愛用していきたいと思います。
チャールズ国王の装いに触発されて始めた今回のコート作りですが、完成した今は、これから着用していくことにワクワクしています。
もし、これを見られた方のなかにも「人生を共にするコートを作りたい」と思われた方がいれば、ぜひご相談ください。オーダーならではの、体型や好みに合わせた調整はもちろん、年月を経ても着続けられる耐久性と美しさを備えた一着をお届けできます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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